浜松市は、2021年6月からインキュベーションプログラム「HamamatsuIncubator2021」を実施しました。

起業を志す人やビジネスの成長を目指すスタートアップ起業家を公募して集まった29名から書類選考と面談を経て10名を選定。プログラム期間は8月から12月まで約5ヶ月間にわたり、スポットメンタリング・ハンズオンメンタリングなどを中心に、各採択者のフェーズに合わせた事業プランのブラッシュアップを通して10名の起業家の伴走支援を行いました。そして、2022年1月に浜松市内でデモデイを実施し、3名を優秀賞として選びました。今回は、その3名の起業家とともに本プログラムについて振り返ります。

【プロフィール】
・水野 将吾氏: 株式会社ユーリア 代表取締役、当プログラムの最優秀賞受賞者
・山田 好洋氏: 株式会社YAMADA 代表取締役、当プログラムの優秀賞受賞者
・嶋田 庸一氏: 株式会社Connect Afya 代表、当プログラムの優秀賞受賞者
・小田 健博氏: フォースタートアップス株式会社 Public Affairs戦略室 マネージャー、本事業担当責任者
大村 貴徳氏: 浜松市産業部スタートアップ推進課

※当インタビュー及び撮影はオンラインで行っています。

起業家輩出で有名な浜松市。なぜ、スタートアップ創出に?

ーー浜松市は数多くの起業家を輩出する都市として有名です。これまでにも世界に通用する起業を数多く輩出してきていますが、改めて今浜松市がスタートアップ創出に取り組んでいる背景について教えてください

 大村:浜松市は日本を代表するものづくり企業が生まれ育った、ものづくりの力で発展をしてきたまちです。

現在、本市の経済を支えるものづくり産業は、百年に一度の大変革の時代に突入しており、自動車のEV化やCASE対応、カーボンニュートラル、DXなど、さまざまな課題に対応することが求められています。

こうした課題に対し、スタートアップの革新的なアイデアとこれまでのものづくり企業の技術力の融合により、新たなイノベーションの連鎖を生み出すことで、輸送用機器に次ぐ新たな産業を生み出すことを目指して、スタートアップ政策に取り組んでいます。

 ーースタートアップ創出に関して、取り組まれていることについて具体的に教えていただけますか。

大村:スタートアップのステージに合わせて、さまざまな支援メニューを用意しています。

たとえば、今後の飛躍的な成長が期待されるスタートアップ等が浜松市内で実証実験を実施する際に、各種支援を行う『実証実験サポート事業』を行っています。この事業は、市の社会課題の解決や、市民サービスの向上につながるような実証実験プロジェクトを全国から募集し、選定されたプロジェクトを市が全面的にサポートするものです。

サポートの内容は、「フィールドの提供」「関係者との調整」「実証実験に要する経費の助成」「モニターの募集」などです。また、市内におけるスタートアップ投資の活性化を通じ、市内スタートアップにとってアクセス可能な資金調達手段を増やすため、『ファンドサポート事業』を実施しています。

この事業は、市内のスタートアップの資金調達を促進する事業で、本市がベンチャーキャピタルを認定して、その認定ベンチャーキャピタルが、市内のスタートアップに投資した場合、その投資額に応じて、浜松市がスタートアップに交付金を交付する制度となります。

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▲浜松市産業部スタートアップ推進課 大村 貴徳氏

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▲フォースタートアップス株式会社 Public Affairs戦略室 マネージャー
本事業担当責任者 小田 健博氏

ーーありがとうございます。これまで本事業の運営を受託したフォースタートアップス(株)では、どのようなインキュベーションプログラムを提供してきたのでしょうか。

小田:約5ヶ月にわたり、起業家や起業を志す方を対象に、起業した後に必要になる要素を具体的に提供するプログラムを実施しました。

具体的には、日本を代表するVCや起業家などの経験豊富なメンター陣によるメンタリングをはじめとする事業ブラッシュアップの壁打ちメニューを約5ヶ月間提供しています。ポイントは、単にさまざまな人からメンタリングを受けるだけではないことです。

 毎回別の方のメンタリングを受けるのではなく、メンター側もスタートアップの成長具合を確認しながら深くサポートできるように、1社に対し1名の担当メンターがつく形で行うことも特徴の1つです。月2回は必ず担当メンターの方がメンタリングをするという時間を設け、スタートアップの事業に対する課題や問題点についてのアドバイスや提案を行い、月1回は豊富な経験と知識を持つスポットメンターが、もう少しマクロな視点でアドバイスをしました。

また、ハンズオン支援として弊社メンバーも一人ひとりの参加者の方々のペースに合わせて寄り添った支援を行ってきました。私を含めた弊社メンバーが、定期的に大局的な相談を受けられるような体制を整え、参加者が気軽に壁打ちを行える時間も設けました。

 ーー毎週、参加者の方々は社外のどなたかとコミュニケーションをとれる仕組みなのですね。

 そうですね。今自分が考えていることや自分が直面している状況を、言語化して整理をする時間を設けることは非常に重要なことです。

この他にもプログラムを通じて「事業を対外的に発信をする場」も設けました。それが合同メンタリングデイとデモデイの2回です。起業家として自分が取り組んでいることを人に分かりやすく説明することは重要なスキルです。スタートアップがピッチをする先はVCだけではありません。商談の時はお客さん、業務提携先の事業会社など、どのような人にも自分の事業をわかりやすく伝えられることは必要なスキルになります。

もちろん、説明する際にはさまざまな角度からの質問がありますから、それに対応できる回答をたくさん持っていただくために、メンターなどを含めてさまざまな方と話が出来る機会を提供しようと考えました。

5,500万円の資金調達成功。プロダクトアウトから脱却し、世界観を語れる経営者に。

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▶︎最優秀賞受賞者:株式会社ユーリア 水野 将吾氏
IT企業にてヘルスケア系の新規事業の立ち上げ業務に従事するが、起業を志し退職。退職後に、H.I.S.の設立者である澤田秀雄が主宰する澤田経営道場の経営者育成プログラムに参加。2021年4月、同道場の卒業と同時に、株式会社ユーリアを設立。尿から栄養の過不足を検出し栄養状態のスクリーニングを行うとともに、過不足に合わせたサプリメントを提供し、栄養状態の改善までの一括提供を目指しています。

ーー浜松市のインキュベーションプログラムによって採択された3名の方に、お話を伺います。先日、プログラムの一区切りとなったデモデイが終了しました。プログラムを受ける前の事業は、どのような状況で、受けた後はどのような変化がありましたか。まずは水野さんからお願いします。

水野:プログラムが始まる前はプロダクトアウト過ぎて「自分たちの技術を世の中に知らしめてやろう」といった感じで、「これはどこにニーズがあるんだっけ?」というような状態に陥っていました。プログラムを受けた後では、僕の中でその視点が大きく変わったと思っています。

僕は松山さん(Code Republic 共同代表 松山 馨太氏)にメンタリングをしていただきましたが、受けていく中で段々と、僕が伝えたい情報とVCが知りたい情報がミスマッチしていることが分かりました。
最初は「うちの技術はこんなに凄いです」という話をしてばかりでしたが、松山さんから「VC視点では、どうマネタイズできるかや可能性が知りたい」と教わりました。それにも関わらず、1回目の合同メンタリングデイの時は「伝えたいことをそのまま言いたい!」と思い、自分の技術を伝えることに走ってしまいました。その結果、VCの皆さんからのフィードバックは散々で、松山さんのおっしゃる通りこれではダメなんだと気づきました。

それから、松山さんの教えに沿ってVCはどのようなことを知りたいかを考えながら資料をすべて作成し直し、僕らの技術の話などは一切しないようにしました。具体的には「こういうことができて、こんな未来がある」という話だけにフォーカスをするようにしたところ、息詰まっていた状況から脱出することができました。今回のインキュベーションプログラムにおいては入賞できましたし、5,500万円の資金調達にも漕ぎ着け、事業が好転しはじめました。

ーー受賞・資金調達、おめでとうございます。どのような点が評価されて、資金調達が成功したのでしょうか?

水野:社会性がある点です。VCの方からは「これがもし広がれば、現状どこにニーズがあるのかを発掘していく必要はありますが、さまざまな掛け算ができるので一緒に伴走をしていけば何か良いことになりそうだよね」と言っていただけました。松山さんの言っていたことが正解だったのです。今回のプログラムはずっと同じ人が伴走をしてくれることが特徴ですが、踏み込んだご指摘いただける関係性になれたことは、僕にとって本当に大きかったと思っています。

小田:今回ここにいらっしゃる3名の中で水野さんと山田さんは、実はとてもマーケットインで入ってサービスをつくってきたはずでした。でも、事業を進めるうちに視点がプロダクトアウトになってしまい、プログラムのはじめのうちは「自分たちがつくっているものをどうしようか」とプロダクトにフォーカスをして考えられている傾向がありました。水野さんは視野が狭くなってしまいがちなところを、外部の人と話すことで、グッと視野を広げるような機会を得ることで、好転した事例だと思います。

インキュベイトキャンプで3位受賞。現場目線から経営目線に視座が高まった。

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▶︎優秀賞受賞者:株式会社Connect Afya 嶋田 庸一氏
新卒で外資系コンサルティング会社ZSアソシエイツに勤務する傍ら、Afri-Inc(現SENRI株式会社)の創業メンバーとしてウガンダ・ケニアで活動。フランスMBA留学を経てケニアで起業。HEC Paris MBA。東京大学法学部・同公共政策大学院卒。株式会社Connect Afyaを創業した現在は、アフリカやケニアにてPCR検査を中心とする臨床検査ラボ、医療機器卸、クリニックを三位一体で展開。ケニア現地での事業で培った医療機関、医療関係者とのネットワークを利用してグローバル企業との様々なプロジェクトを実施している。

ーーつづいて、嶋田さんにお伺いしていきたいと思います。プログラムを受ける前の事業と、終わった後の事業で、どのように変化がありましたか。教えて下さい。

嶋田:プログラムを受ける前は、どうしてもオペレーションをどのように回すかという現場目線になってしまいがちでしたが、受けた後では視座が格段に上がりました。

私は名倉さん(CIC Japan合同会社 ゼネラル・マネジャー 名倉 勝氏)に担当していただきましたが、「今後どのように事業の広がりをつくっていくか。メンター目線ではどのように見えているのか。ピッチの時の見せ方はどうすべきか」などのフィードバックを適宜いただき、考えを深めることができました。

現在、他企業との協業の話がありますが、名倉さんに協業先の企業担当者の方とミーティングにも同席していただいたこともあります。献身的にサポートをしていただきまして、本当に足を向けて寝られないくらいお世話になりました。

この期間中に、トラクションが大きく伸びて、売上の規模感で言うと、倍以上になりました。こうした状況をつくり出したのは、メンタリングを受けて視座が高まったことも関係していると感じています。また、インキュベイトキャンプ(※)にて3位を受賞することができました。

小田:嶋田さんは、マーケットが日本ではなくて、そもそもアフリカという特徴がありました。そういう意味では国内に向き合っているメンターの方では、なかなか対応が難しいものでした。弊社との繋がりが深くて、尚且つ、海外事情に詳しい名倉さんと嶋田さんは近しい経験を歩んでこられているので、良いマッチングができたのではないかと思います。嶋田さんには、今後、海外で頑張る日本人の方の1つのモデルケースになっていっていただけるのではないかと、非常に期待感を大きく持っています。

(※)スタートアップ経営者を対象とした1泊2日の合宿プログラム。起業家はこの2日間を通じてゲストVCとディスカッションを重ねて事業プランをブラッシュアップ、2日目にはプレゼンテーションを行い、審査員からのフィードバック・アドバイスを得ることができる。

地元金融機関と取り組みへ。ビジネスノウハウから学んだ元接骨院院長

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▶︎優秀賞受賞者:株式会社YAMADA 山田 好洋氏
病院勤務を経て山田接骨院を浜松市で開業。デイサービス・トレーニングジムを経て、歩行に悩む方の夢の歩行を実現するためにe-footを開発し、2020年に株式会社YAMADAを設立。世界初のゴムの力で歩行支援する歩行補助具『e-foot』の開発・販売により、歩行リハビリへの貢献やトレーニング時の利用によるフォーム改善と怪我予防を図っています。

ーー山田さんにお伺いできればと思います。プログラムを受ける前と後で、どのような変化がありましたか。

山田:今回はじめて起業家向けのサポートを受けました。インキュベーションプログラムが存在すること自体を知らず、VCの存在も知らない。いつも1人で事業に向き合ってきたので、相談する人もいませんでしたから、「どうしていこうか」と迷っていたところでした。

はじめてメンタリングを受けた瞬間から、ビジネスの考え方の転換がされていく感覚がありました。私はいわゆるスタートアップビジネスをした経験もなく、これまでは接骨院を開業して患者さんが困っていることの手助けをすることを考えてきただけでした。そのため、プログラムを受けた後では全く違ったビジネスプランになったと実感しています。

ーーメンタリングを受けてみて事業はどのように変わったのでしょうか。

山田:プログラムを受ける前は、医療・介護などで領域を大きく4つに分けていたのですが、安喜さん(株式会社iSGSインベストメントワークス インベストメント・マネージャー 安喜 理紗氏)から1つに絞るようにアドバイスをいただきました。

もともと、「歩けない方を歩けるようにすること」を目的に開発したのですが、私が一番望んでいたのはそういうことではないと気づきました。よくよく考えを紐解いていったところ、「健康長寿」を求めていたのです。私は長年、介護職に携わっておりますが「健康長寿を実現するための取り組み」の1本に絞ろうと考えました。

もちろん、子どもたちの身体を守りながら走ることができるようにするという、若年層が対象となる大きな課題もあるのですが、まずは健康長寿にフォーカスしたことで、ウォーキングの会社やウォーキング協会さんなどから、問い合わせをいただくことに繋がりました。結果として、日本を代表する量販店さんから、提携のお話もいただいております。

ーーその他に、プログラムの前後で変わったことはありますか。

山田:今回この賞をいただいたことで、大学や病院からも「市のプログラムで受賞したものなのであれば、ぜひ一回見せてください」とお声掛けくださり、体験をしていただきました。実際に使ってもらうと「すぐに使っていきたい」と仰ってくださいました。

また、スポーツ量販店さんとの取り組みも話が進んでいます。クラウドファンディングも、地元金融機関と一緒に取り組むという運びになっています。加えて地元報道機関に「健康長寿」の取り組みに賛同いただき、サポートをしていただいております。

ーーさまざまなところに山田さんの想いが伝わったのですね。フォースタートアップス担当者からは、どのような支援がありましたか。

山田:私は全てにおいて、簡単に言うと素人でした。スプレッドシートの使い方なども含めて、本当にイチから教えていただきました。またプレスリリースについて、フォースタートアップスのPR担当の方も一緒になって、手伝っていただいたこともありました。ビジネスにおける基礎的な部分も支援いただいたと思っています。本当に感謝しています。

小田:山田さんにおいては、インフラづくりに近しいところがマーケット拡大の第一歩になるはずなので、個人の頑張りだけではどうしても限界があります。社外の協力者や、オープンイノベーションのような外部企業との連携なども、これから非常に重要になってくるはずです。そのようなコラボレーションはもちろん、人を採用するとか、外部の協力者を探すということに関しても、フォースタートアップスでは人材のご支援もしている会社なので、協力が出来ることもあると思います。いつでも相談をしてほしいです。

浜松市としてスタートアップエコシステムの構築を目指す。

ーーありがとうございます。今、プログラムを受けられた三名の方に内容をお聞きしましたけれども、率直な感想を伺ってもよろしいですか。

大村:ありがとうございます。皆さんの事業は大きく進捗したと感じました。2022年度も本プログラムを継続して実施してまいります。こうした取り組みの中で、浜松市からスタートアップが生まれて育って集まっていく、スタートアップのエコシステム構築に向けて、より一層取り組んでいけたら良いなと思っております。

ーー最後に小田さんからも一言お願いします。

小田:こういった取り組みは1年や2年で成果が出るものではないと思います。継続をし、インキュベーションプログラムが、浜松市にとって当たり前の文化になるくらいの取り組みに、是非して欲しいなと思います。

また、今日ここにいらっしゃる3名の方が、このプログラムから何か企画をつくって、数年後に「実はこのようなコラボレーションが生まれました」というニュースが生まれたりすると、僕らは泣くほど嬉しいなと思います。

ライター/編集者:宮本愛